目嚢 めぶくろ 加門七海 [本 作者か行]
古い蔵から出てきたのだという『目嚢』という古い書付を従妹から見せられる。怪談作家である鹿角南は興味を持ち、それを調べていく。調べていくうちに従妹の嫁ぎ先である菊池の家の暗い部分に行き当たり、巻き込まれていく。続く怪異はいったい何を原因として、何を目的としているのか。
あわわ、なかなか怖い。巻き込まれていく感覚がないのに巻き込まれている。これって、普通のアクシデントでもそうだけど、抜け出すのがけっこう大変。けど、現実のアクシデントは原因がわかるとなんとか対処ができるけれど、怪異に巻き込まれていくのは、何かわからないから対処の仕様がない。対処しようとして原因を探れば深みにはまる。泥沼。怖くて、終わらせたくて一気によんでしまった一冊。
ドラゴンの塔 上下 ナオミ・ノヴィク [本 作者な行]
10年に一度、このあたりの村から17歳の娘一人が選ばれて、谷はずれの塔に連れていかれる。そこには100年以上を生きるドラゴンという魔法使いがいて、その彼と一緒に暮らさなければならない。10年後帰ってくる娘たちは一様に変わってしまうという。その娘が選ばれる今年、アグニーシュカはその候補になっている。けれど、候補に挙がった娘たちのなかには、見目麗しく、昔から連れていかれるならこの子だとされる娘がいた。けれどふたを開ければアグニーシュカが選ばれた。なぜ?なぜ私が?混乱するアグニーシュカ。ドラゴンは何も語らず、塔へ行ったアグニーシュカは毎日混乱する。
けれど、選ばれるからには理由がある。その理由を知ったとき、アグニーシュカの生き方が変わる。
面白かった。はじめはなんだかよくわからなくて、けれど主人公のアグニーシュカと同じように、理解を始めると世界が変わる。物語なんだけれど、現実とどこかリンクしているような既視感がある。でも全然この世界の話じゃないんだけれど。不思議な感じがする。面白くて、一気に読んでしまった。
魔法と、剣と、呪いと。王道のファンタジーで、そしてやっぱりちょっと恋愛も。
ちゃんとてんこもりで面白い。
福の神と貧乏神 小松和彦 [本 作者か行]
せっかく新しい年を迎えるのだからと手に取ってみたのが本書。今年は福の神に好かれて、貧乏神に嫌われる年にしたいと思って、どんな本なのかと読んでみた。
けれど、幸せって何なのだろうか?幸せというのはその時代や場所によってかわってくるもので、確固としたものではないのかもしれない。じゃあ、そんな福をどう扱う神たちなのだろう?
七福神はどうやって集まってきたのか、長者とよばれる人たちはどういった人なのか。そしてその福の仕組みはどうなのか。
富はどこからくるのものなのか。空中から湧いて出てくるものでもないわけだから。
尽きない『福』への謎。
実際読んでみて、なんかちょっと方向性が違うって思ったのも事実。けれど、『福』ってなんなのだろうか?『福を得る人』とは?なんていうちょっとした疑問が出てくる。それを広く知ることができるのが本書。
葛と日本人 有岡利幸 [本 作者あ行]
皆さんも目にしたことがあると思う。葛。くず粉、葛餅、文学での葛。けれど、もしかしたら葛なんて植物はみたことがない。なんていう人がいるかもしれない。けれど、それは間違いできっと一度は目にしたことがあるはず。
蔓でちょっとしたところにも蔓延って、甘い香りのする紫の花を咲かせる植物。こんなに身近にあるのに、意識されることが少ない。川原や空き地で繁茂しているこの植物から、布ができたり、くず粉がとれたりするなんて考えもしないんだろうなと思う。
『うらみくずのは』というフレーズはしっていたけれど、これの本当の意味も知らなかった。知らないことばっかりだなと思う。
身近な草で、実は有益に使われている。けれど、普段は目にしていても、気が付かないってこと、おおんだと思う。
超耐性菌 マット・マッカーシー [本 作者ま行]
超耐性菌。なんともまあ物騒な名前だと思う。けれどそれは大げさな名前などではない。
医療技術は進歩した。そして薬も。ペニシリンをはじめ、抗生物質というものは私が子供の頃からすでにあったものだから、抗菌薬のない時代なんて思いもつかない。抗菌薬さえ打てば、かなり簡単にいろいろと治ってくる。調子がわるくなったら病院へ行って、注射を打ってもらえば治るっていうのがイメージだ。様々な感染症に効く。けれど、多用し必要もないのに使い続けたりすると、その薬にたいして耐性のついた菌が出てくる。それらがこの本にある超耐性菌。多剤耐性菌である。
その多剤耐性菌にも打ち勝つ成分をどこから見つけてくるのか。そしてそれが使えるようになるにはどういう手順を踏むのか。
アメリカの病院で筆者は医師として働いている。そこに運び込まれてくる患者に対して、どうやって治療をするのか。新しい薬はどうなるのか。新しい抗菌剤ダルバの実用化を目指して治験を始めようとするのだが…。
ノンフィクションです。最近ちょっと病院を行き来することが多く、そこでいろいろ考えさせられることがありました。で気になってしまって。たしかにいままでは治ったのに、薬が効きにくくなってということはあります。けれど、普段は病院へも行かないし、そんな怪我や病気ばっかりするわけでもないから、気にならないけれど。そういう人ばかりを扱う現場だとしたらどうだろう。効かない薬があるというのはすごく怖いことだと思う。この薬剤耐性菌と戦っている研究者や医者の話。入門編みたいな感じ。